ちょっと知りたい、印刷のこと

出版と印刷

 日本では活字離れが叫ばれて久しいようです。新聞や雑誌の出版部数も年々減少してきていますし、バブル経済時にピークを迎えた出版業界は年々業績が悪化しているところが多くなっています。実際、インターネットの普及もあって本を読む機会は減ってきているのではないでしょうか。この出版不況といわれる時代、実は部数減少とは逆に、実は近年、出版点数そのものは増えてきています。これは日本の、本を流通する仕組みの都合上なのです。
 書店やコンビニ、駅のキオスクなど、私たちはさまざまな場所で多くの本を購入することができます。今はインターネット通販で本を購入する人も増えてきました。通常、出版社と購入者を結ぶ販売店は、取次と呼ばれています。この取次を通して、本屋さんに本が並べられて、書店は取次に本を返却します。このシステムでは、一定期間内であれば売れ残った本を費用負担なしに返品する事ができるのです。このため、書店は仕入れを読み違えたとしても在庫を抱えることがないという特殊な環境にありました。書店は本を仕入れた分は、もちろんお金を支払うのですが、その金額は返品した本と相殺されます。ですから極端に言えば、仕入れた本より返本金額が多ければ、取次そして出版社は赤字になってしまいます。ですから、返本されてくる本よりも多くの本を出版し、書店に並べておけば、返本による赤字は、表面上はですが発生しません。そのため、本が売れなくなっていると言われながらも、本の出版点数そのものは増えているのだと言われています。
 それでは、例えば作家に憧れている人がいるとして、自費出版した本をこの流通レートに入れる事はできるのでしょうか。日本で流通する本は、日本図書コードさえ取得できれば取次に扱ってもらう事ができます。ただ、日本図書コードに含まれるISBNコードは出版社でなければ取得できません。ですから、出版社コード持っている会社にISBNコードを取ってもらえば自費出版物も全国の本屋さんに並べることは可能ということになります。ですがもちろん、知名度のない人が書いた本は、なかなか売れるものではありません。自費出版した本を、取次を通して販売した場合、その多くは品を作るための費用がほぼ丸ごと、本を出版した本人の赤字になってしまうこともめずらしくありません。出版社にとって自費出版とは、本の売り上げで利益を得るための物ではなく、印刷費用を負担する本を出版した本人から利益を得ることになっています。ですから、まったく売れない本を作っても、自費出版なら出版社はまったく損をしないのです。どうしても、一生に一度でかまわない、売れなくてもかまわないから自分の書いた本を出版してみたい、そう考える人が存在する以上、否定出来ない出版方法なのですが、こうした自費出版の場合は印刷屋(出版社)が、たくみな営業トークを使って強引な勧誘方法をとることもあります。お金が必要な出版を、やたらと勧めてくるような印刷屋さんは避けたほうがいいですし、本を出すと決意したのならプロが書いた本ですらなかなか売れない時代ですから、売れなくて当然、くらいの気持ちを持っていたほうがいいかもしれません。

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